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zoom RSS 映画『動くな,死ね,甦れ!』 〜痛みと温もり〜

<<   作成日時 : 2010/01/05 09:55   >>

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正月休み最後の日,シネ・ヌーヴォで開催中の「ヴィターリー・カネフスキー特集上映」に行ってきた。

「特集上映」といっても,上映作品は3本だけ・・

これを,3連休をはさむ2週間に充てるシネ・ヌーヴォはさすがだと思う。


昨日は,取りあえず,『動くな,死ね,甦れ!』の1本だけを観た。

1989年に,カンヌで新人賞を獲ったカネフスキーの出世作らしい。

この人,ソ連・ロシア映画界に,時おり登場する先鋭的な作家の一人らしく・・

ご多分に漏れず,ソ連時代は迫害され,冷飯を喰わされたクチのようだ。

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本作は,第二次大戦直後,捕虜収容所のある町で育つ少年・少女の物語。

ともかく,1989年にモノクロでこんな映像を撮ったのがスゴイ!

50年代のフィルムだと言われたら信じてしまいそうな・・

しかし,表現手法は先鋭的で,やはり今の映画に近いと思う。


全体にテンションが高くて,揉みあうような人の動きに満ちている。

怒鳴りあうような激しいセリフの応酬と,子どもたちの甲高い矯正をうまく利用している。

子どもを殴りつけるような劇的な演出も多く・・

生身の「肉体」を感じさせるショットの力は鮮烈だが・・

どこか人肌の温みがあり,痛みはあっても,酷薄過ぎることはない。

時おり,収容所の日本兵が唄う「よさこい節」や「五木の子守唄」などがバックに流れ,不思議なゆったり感が画面を包む。

そういった映像と音声のモーションによって,リズミカルに映画を紡いでいるのだ。


キャメラワークが独特で,変幻自在というのか・・

屋外では手持ちの移動撮影が多く,ドキュメンタリータッチで,かなりの長回しをやる。

時に地面から見上げるような極端なローアングルを用い,大地の感触が伝わるようだ。

アパートメントの廊下のような室内セットでは,キャメラを真っ直ぐに立てず,やや高い位置で斜めに倒すようなショットが目に付き・・

建物が傾斜しているような錯覚があり,不安感が増す。

モノクロ映像とも相まって,旧いドイツ印象主義映画とダブった。


何と言っても,主人公の少年と彼を見守る少女が素晴らしい。

少年役は決して可愛くはないのだが,折々の感情が素直に表情に出ていて,目を惹きつける。

少女役も美人ではないが,独特な雰囲気があり,子どものくせに,「母性」すら感じさせて,不思議な魅力があった。

この少女役のディナーラ・ドルカーロワについては,映画の最初から,どこかで見たことがあるな,と思っていたのだが・・

観終わって,ネットで検索してみてわかった。。

『やさしい嘘』(2003年)という作品で,孫娘の役をやった女優さんだったのだ。→『やさしい嘘』レビュー


全体にストーリーを追う編集をよしとせず,映像感覚をより前面に出してくる。

唐突で脈絡の不明瞭なシーンやショットをはさみ,つなぎの省略も多いので,こういう作品に慣れていないと戸惑うかもしれない。

しかし,決して解からない映画ではない。

ストーリーはあっても,理屈で展開を追うのではなく,映像を感じながら観るべき作品だ。

ソ連・ロシアのアート系映画としては,タルコフスキーのような「眠りのリズム」ではないし,ソクーロフのような哲学臭もないので観やすいと思う。


ラストはあまりに悲痛だが,「狂気」のモーションで空気を切り裂き・・

わざとキャメラのこちら側の声(監督と思しき声)を入れることで,すべてを突き放して客観化してしまう。

全体には人間的な痛みと温もりがあって,救いがない作品ではない。

久々に惹き込まれた1本だった。


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