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zoom RSS 『江分利満氏の優雅な生活』 〜戦中派の思い〜

<<   作成日時 : 2009/08/15 14:43   >>

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シネ・ヌーヴォで上映中の「映画のアルチザン・岡本喜八」から・・

ちょっと異色な『江分利満氏の優雅な生活』(1963年)について感想を。


戦後の高度経長期を舞台に,どこにでもいる中年サラリーマンの心情を綴った軽妙なタッチの喜劇。

「喜劇」とはいえ,何ともいえない哀感が漂う・・

喜八監督が,同世代の思いを代弁したような一作だ。


****************************

主人公の名「江分利満」は,英語の“everyman”を文字っており・・

要するに,どこにでもいる普通の人というような意味なのだろう。


今のサラリーマンと決定的に違うのは,この時代の人は,戦争体験があったということ。

学徒動員にかかった世代が,まだ三十代の働き盛りだった頃だ。

戦争に青春を奪われ,戦後の大混乱に翻弄され,働き出せば高度成長の歯車として使われ・・


今の平和ボケした日本人の暮らしを思えば,波乱に富んだ半生なのに,その生活感覚は,今では思いもよらないほどつましいもの。


彼の父親は,戦争中,時局を見越して事業を起こし,羽振りがよくなったかと思えば,倒産を繰り返した戦争成金。

今や文無しの父には大変な借金があって,江分利氏は首が回らない。

その一人息子は,身体が弱くマンガに夢中になる現代っ子。


好き勝手に生きた無責任な父と,病弱な妻子との狭間で・・

江分利氏の世代は,ある意味,最も割を食った世代なのかもしれない。


そのウィットに富んだ作風は,同じ東宝の先輩,市川崑の作品と見まごうほど。

テンポの速い編集とシュールな技巧,アニメーションを随所で駆使した斬新な構成が目を惹く。


しかし,後半,直木賞の祝賀会でしこたま酔った江分利氏がクダを巻くシーンでは・・

一転して,長ゼリフで執拗に戦中派の思いの丈をぶつける。


なぜか「恥ずかしい」がキーワード。

「カルピスは恥ずかしい・・」

昭和の初めには,「初恋の味」で売り出し,戦中・戦後を経て,今だに(昭和35年ごろ)変わらず存在するのが恥ずかしいらしい。

「昭和12年の神宮球場の早慶戦は恥ずかしい・・」

若人の情熱が「戦争」に向けられたことが恥ずかしい。

しかし,あの時代,誰にも戦争を止めることなどできなかった・・


そして,戦死した同世代の兵士の遺品にあったという婚約者からの手紙を読み・・

その悲劇に思いを馳せる。


昭和30年代中ごろから後半といえば,安保闘争の時代。

十歳ほど下の世代が,「戦争」を糾弾して暴れまわっていた。

そんな時代に,一言残しておきたかった・・

一番割を食った戦中派の思いが込められた一作といえるのかもしれない。



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