上方遊歩人のクラシックシネマ考

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zoom RSS 映画『大殺陣 雄呂血』 〜バンツマと雷蔵〜

<<   作成日時 : 2009/07/19 23:55   >>

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毎年,この時期になると,京都みなみ会館で「市川雷蔵映画祭」が催される。

祇園祭本宮の7月17日が雷蔵の命日なのだ。

今日は,ずっと観たいと思っていた『大殺陣 雄呂血』がかかったので,観に行った。


1966年作だが,知られる通り,これはサイレント期に阪東妻三郎主演で撮られた『雄呂血』(1925年)を元ネタにした作品だ。


バンツマの『雄呂血』を,私は小学高学年の頃にテレビ放映で観た。

そのときの語り手は,最後の活動弁士,松田春翠氏だったが・・

大げさでなく,時代劇観が変わるほどの大ショックを受けた。

大正末期という歴史の彼方につくられた無声映画が,そんなとてつもないパワーを持っていようとは,予想だにしなかった。


今回観た雷蔵版は,バンツマ版とは設定もストーリーも違って・・

世間に裏切られ,抹殺されようとする男が,ついに反逆の刃を抜くといったモチーフだけ借りた形だ。


***********************

バンツマ版はラストの大立ち回りに全ての焦点を合わせていて,

そこにたどり着くまでは,主人公のツキに見放された転落人生を延々と語り・・

耐えに耐え,溜まりに溜まった怒りが,最後に大爆発するといったカタストロフに満ち溢れていた。

その分,ラストに至るまでの物語は,いささか陳腐なものと言わざるを得なかった。


さすがに40年後に撮られた雷蔵版は,ストーリー自体は練りこまれていて,

清廉な主人公が,裏切られ,罠にはめられ,ニヒリズムに陥っていく過程も丁寧に描かれている。


さらに,許婚だった八千草薫の悲劇も複線的に進行し,男女のラブストーリーとしての側面を強く打ち出している。


ただ,途中,何度も小さな決闘シーンを挿入して,そのたびにガス抜きされたため,最後の「大殺陣」に至るまでに鬱積するものが足りず,気持の盛り上がりを欠いてしまった。


「大殺陣」自体も,バンツマ版のリアルで即興的な乱闘と違って・・

型を決めて,百人に及ぼうかという敵を,一人一太刀で倒していくなど,あり得ない超人ぶり。

いくら雷蔵がよれよれでも,悲愴感は薄かった。


一方で,田中徳三監督の演出は,サラリとして乾いた印象。

観客に予想できる部分は省略を利かせて,余計なものをいっさい見せない。

この辺はさすがだと思った。

何でも赤裸々に見せるのがリアリズムだと勘違いしている,今どきの作家には見習ってほしいものだ。


市川雷蔵は,虐げられ虚無的になりながら,人の道を捨てきれない主人公の性格描写がナチュラルで説得力があった。

ただ,もともと線が細く,今回のような大立ち回りでは,下半身がナヨッとした印象で,残念ながら,バンツマみたいな骨太な殺陣は望めなかった。


結末はバンツマ版とはまったく違って,どこまでも理不尽で悲劇的なものにはしていない。

左翼思想が大衆化し「滅びの美学」が称揚された大正末期と,高度成長の高揚感にあふれた60年代という時代性の違いは,やはり大きいようだ。


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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
遊歩人様
阪東妻三郎!!
大好きです!!
バンツマの雄呂血は私も小さい時に、テレビで放映されていたのを、祖父母と見た事があります。
痛快娯楽時代劇とは程遠い、社会派の活劇でした。
大殺陣回りの後、バンツマが雄呂血に変身する直前に、捕り縄でぐるぐる巻きにされる時のあの凄まじい形相は今でも忘れられません。
私は逆に、雷蔵のは見た事がないので、2つを比較出来た遊歩人さんは良い鑑賞の仕方をされましたね!羨ましいです!
今度DVDで探してみようかしら…
私の中で、バンツマと言うと思い出すのが「無法松の一生」です。
いつも思うのですが、昔の映画の中に漂う独特の空気や、モノクロ映画にしか出せないノスタルジー感は堪りませんね。
第一に、モノクロ映画を鑑賞するには、想像力が豊かでないとより楽しめない気がします。
無法松に戻りますが、老体にムチ打ってボンの為に乱れ太鼓を打つ場面には、胸を打たれました。
それにこの映画の中の子役が何と長門裕之!
時の流れを感じます。
後で三船敏郎版がリバイバルされそれなりに良かったですが、私はやはりバンツマ版が好きです。
まりりん
2010/06/09 13:12
まりりん様
いつもありがとうございます。
バンツマといえば剣戟王ですが,全盛期の時代劇は私の祖父母の時代なので,そんな本数は観ていないのですが,当時の人は立ち回りの迫力がすごいです。今みたいにキャメラワークや技術系で誤魔化せない分,専門役者は鍛えられていたのでしょう。
「無法松の一生」いいですね。特に主人公の晩年のノスタルジックな想いが胸を打ちました。バンツマは戦後は現代劇は増えましたが,押し出しがよくて,いかにも「役者」という感じが際立っていたと思います。長門裕之の子役,面影があって笑えました^^。
遊歩人
2010/06/10 08:37

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