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上方遊歩人の日記
映画『エル・スール』 〜わきまえた映画づくり〜
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作成日時 : 2009/01/12 21:21
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京都みなみ会館のビクトル・エリセ特集で
『エル・スール』
(1983年スペイン)を観た。
かつてアート系といわれたこの種の映画は,観る人を選ぶのが常だが,この作品はそんなことはない。
表現が前衛的ではないし,意味の解からないシーンがないので,肩肘張らず,リラックスしてふんわりと観るのがいい。
誰にでも入りやすい・・ しかし,映画に求めるものを間違うと,じつにつまらない映画に思えるかもしれない。
だから万人にはオススメできない。
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題名の「エル・スール」とは,スペイン南部のこと。
故郷である「南部」を捨てながらも,過去への想いを断ち切れない父と,そんな父の過去の断片に触れた娘の葛藤・・
全編を通して演出は静かで坦々として,これ見よがしなことは一切やらない。あからさまに劇的な場面はまったくない。
長回しや移動撮影をやっても,実にさりげないし・・ 画面外からの音を巧みに使って,見せずに物語る手法を多用している。
映像場面としては,非常に限られた空間しか提供されない。
大半が「カモメの家」と街だけ。映画館,カフェ,ホテルのレストラン,教会ぐらい・・・
家の前を通る並木道は延々と続くが,道の先は一切描写されず,バイクや自転車が向こうへ去っていく,あるいはこちらへ近づいてくるショットが繰り返される。
見せずに観る者の想像をかき立てる。じつに映画的だと思う。
そして,何度も映し出される風見のカモメが南を向いていて,登場人物の浮遊する心象風景をさりげなく物語る。
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特に前半は光の表現にこだわっている。
ワンショットのなかで,窓から差す外光に変化をつける。夜明け前の寒々とした青い光に,橙色の陽光が差すとき,空気と温度の変化を感じてしまう。
そして,闇から人物が浮き上がるようなフェードイン,そしてフェードアウトを,フィルム処理でなく撮影時の照明で行っている。それが,静かな映像リズムのなかでアクセントとなっている。
時おりカーテンショット的に挿入される水辺の夕景や朝焼けのショットが目に沁みる。このイメージが,伏線となってラストにつながっていく。
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娘役として,幼少時と成長後(高校生ぐらい)の2人が登場する。
この少女(たち)の表情がじつに微妙なバランスを保っているのである。
可愛すぎない,美しすぎない・・ 嫌味はないが,入り込むような親しみより,少し距離を感じる。
表情の微細な変化に重点がおかれ,ときおり心のうちが垣間見えてハッとする。
ヘンな話だが,物語の進展にしたがって,私は少女の目をまっすぐに見据えることができなくなった。
登場人物の心の奥のわだかまりが,観ている私にも乗り移ったような感覚だった。
エンドはちょっとあっ気ない感じもしたが,全体として,じつに“わきまえた”映画づくりであると思った。
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